痛いお話

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(その1) 落馬

落馬は痛い。特に乗馬に慣れていない頃は、落ちそうになった時に馬にしがみついてしまうので、体に力は入っているし、落ちないつもりでいるのでなおさら怪我もし易くなるようです。慣れてくると、諦めのタイミングが分かっているので、落ちても「降りた」に近くなってきます。

でも一番怪我が大きかったのは、だいぶ慣れてきたときのことでした。馬場で走っていたとき、馬が急に横に飛んだので「何だ?」と思ったその後は、もう私の体は馬場の上。しかもそこには30センチほどの低い障害が置いてありました。私の背中はそこに叩き付けられ、打ち身と擦り傷で2,3日痛かったのを覚えています。
ところで、馬が横に飛んだ原因ですが、馬場にいきなり犬が猛スピードで入って来て、それに驚いた馬が横に飛びのいたのです。牧場の犬で、いつもは絶対に馬場に入らない犬なのですが、他の犬が遊びに来ていて、それを追って馬場に入ってしまいました。

話は変わって現在の話です。家の近くに馬関係の大きな施設があり、公園のような感じになっています。ここは犬禁止なのですが、この落馬のことを思い出すと「仕方がないな、」と納得してしまいます。


(その2) 人馬転

乗馬に慣れてくると、落馬というものはほとんどしなくなります。その代わりにたまにするのが人馬転。
「人馬一体」という言葉がありますが、上達すると確かにそんな感じになります。そうすると、馬が転ぶとその上に乗っている人間は乗ったまま、馬ごと転んでしまいます。これを人馬転といいます。

ある早朝、馬の運動を兼ねて公道を走っていました。公道といっても車はほとんど入ってこない道でした。地面はしっかりとした舗装で緩い上り坂。坂の途中で左に曲がりたかったのですが、馬は絶好調で走っています。この路面でこのスピードでは曲がれないだろうな、と思いながらも、自分の意思を伝えたくて、左の手綱に少し感触を与え体重を少し後ろに移動しました。それでも馬は絶好調なので「真っ直ぐ行きたかったら、そうしてくれ、」と思ったその時です。目の前の世界がいきなり2m以上も低くなり、地面を滑っている自分に気がつきました。何が何だか分からず、目をかっと開けて周りを確かめると、馬も私の先20mくらいを横たわりながら滑っていました。このとき着けていた鞍が硬いものだったので、人馬転した瞬間に、馬の体重でその鞍と舗装道路に左足を潰された格好になったのでしょう。気が着いた時には、激痛がはしり動くことが出来ず、一緒にきていた人に馬を捕まえてもらいました。

馬も跛行していましたが、その場で少し様子を見ていると大したことはなさそうだったので、その馬にどうにか乗って牧場まで帰ることに。馬に乗るまでも苦労しましたが、乗ってからも馬が揺れるたびに左膝に激痛がはしります。

ヒーヒーいいながら牧場に帰り、オーナーに事故のことを報告し、馬を怪我させてしまったことを謝ると、オーナーがボソっと言った言葉は「未熟者め、」。一瞬、何を言われているか分かりませんでした。しかし、この言葉がどれほど重要であるかは、数ヶ月痛み続けてよく分かりました。この言葉があったからこそ、今は犬と楽しく暮らしています。


さて、早朝に怪我をしてしまった私ですが、この時一緒に働いている人の中にスキーのレスキューの資格を持っている人がいました。この人が三角巾で応急処置をしてくれたら、痛みも和らぎ、この日一日は仕事が出来ました。仕事が終わって三角巾を外したら、少しでも動かすと痛くてたまりません。自分でやってみると、締めるときに痛いだけで、上手く固定できません。
「応急処置の技術って、凄いんだなー。」と実感。


(その3) 蹴られる

馬といえば「蹴る」と想像する方も多いと思います。残念ながら、後ろに回って蹴られたということは一度もありません。後ろに回るときのコツを覚えれば、まず蹴られることはないと思います。
しかし足先で頭を殴られたとこはあります。これには目の前が真っ暗になって、正気に戻るまで10秒近くかかったと思います。(その場に他に人がいなかったので、どれくらいの時間だったか正確には分かりません。)

それは、馬の前足を洗っているときでした。馬は3本足で立つことはしますが、特別なことがない限り、2本足にはなろうとはしません。前足を持って洗っていれば、他の3本の足は地面についているものだと思い込んでいたら、これが大きな間違いでした。アブか何かがお腹にとまったのでしょう。それを払うために後足を自分のお腹のところに持っていったのです。そしたらちょうど、そこに私の頭があったわけです。それを見ている人がいたら「蹴られた」というより「触った」という程度だと思うのですが、やられた本人はすごく重い感触を感じました。まるで杭打ち用のハンマーで殴られたような感じです。ちなみに気がついたときには、馬から3mくらい離れたところで、のたうっていました。

もし馬が本気で蹴ったら、こんなものではなかったでしょう。たぶん私はここにはいないと思います。
皆さんも馬に蹴られないように気をつけましょう。


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