恐いお話

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(その1) 夢

恐いというほどの話ではありませんが不思議な話です。どうしても納得出来ないない出来事だったので、「変な夢を見た」ということにして自分を納得させています。

住み込みで働くようになってから間もない頃のことです。夏休みの時期でお客さんが多く、私を含めて3人の住み込みの人間がいました。私は体力に自信がなかったため、夜はよく眠りたいと思い、我侭をいって他の二人とは別の部屋で寝ていました。ちょうど馬の扱いが少しは出来るようになってきた頃でもありました。

そんな時期のとある晩、私一人しかいない部屋で寝ていた時のことです。何やら足元の方から気配を感じ、目を覚ましました。その暗闇にいたのは2頭の馬でした。自分の寝ている部屋に2頭の馬が寝ているのです。その2頭は確かに牧場の馬ですが、私が寝ていた部屋は二階にあり馬が入って来れるはずがない場所にあります。
「馬を扱うときは、どんなに驚いても騒いではいけない。心がどうであれ表面上は平静をたもて。」と教えられたので騒ぎはしませんでしたが、ビックリして口がパクパクしてしまいました。夜中なので他の人を起こすわけにもいかず、とにかく「寝ぼけているんだ、はっきり見てみろ。」と自分に言い聞かせて、目をこすり、何度も見直すのですが、悠然と構える2頭が私に背を向けるように寝ていて、時々振り返るように私を見据えるのです。

何度見ても見えるし、だからといって布団から出て足元まで行って、その馬に触るのも恐かったので、「ええい、よく分からないから寝てしまえ!」と布団をかぶり寝てしまいました。

次の日の朝、その時の記憶ははっきりとありました。主観的には、どう考えても夢だったとは思えないのですが、客観的には夢だと考えるしかありません。
未だにモヤモヤしたものがあります。みなさんもそんな経験ってありませんか?



(その2) 恐いお仕事

馬という大型の動物を扱うわけですから危険はつきものです。しかし逃げたいと思うほど恐く感じた仕事は一つだけでした。その仕事というのは放馬された馬を捕まえことです。私が働いていた牧場の馬を捕まえるのに恐いと思ったことはありませんが、その牧場のすぐ近くには幾つか牧場があり、その中に競馬馬の保養牧場がありました。文字通り、競馬馬が保養する牧場です。そこから逃げてきた馬を捕まえるのが最高のスリルでした。

その牧場から私の働いていた牧場までは、緩いのぼりのダートのような直線の道がありました。たまにそこを競馬馬が凄いスピードで走ってくるのです。これが牧場の中に入ってきたらとんでもないことになりますから、とにかく止めなければなりません。

全力で走る競馬馬をどうやって止めるかというと、両手に一握りの草を持ち、両腕を広げてとにかく馬の前に立ちはだかるのです。競馬馬が走っているときの形相を見ただけで恐くなってしまうのですが、それを体を張って止めるのです。

「動物を扱うときは落ち着いて、」の基本を胸にポーカーフェイスでこの仕事をやっているつもりなのですが、馬が20m先くらいから記憶がなく、気がつくとすでに馬は落ち着き、持っている草を食べているのです。まさか気を失っているわけではないでしょうけど、とにかく記憶がありません。

恐ろしさのあまり、毎回記憶がなくなるのはこの仕事だけです。でも、この仕事好きでした。(<過去形です。今「やれ!」と言われたら遠慮します。)


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