牧 童

「牧童???」と思う方も多いかと思いますが、求人広告にはそう書いてありました。仕事は、観光乗馬のお仕事です。馬の世話をしたり、馬の乗り方を教えたり。求人広告に牧童と書いてあったのだから、私の職業は牧童だったのでしょう。


この仕事をはじめた当時、私は大学生でした。夏休みのアルバイトのつもりだったのが、夏休みが終わっても家には帰らず、そのまま仕事を続け、大学は退学の手続きをとりました。
仕事の内容よりも、この仕事をしたことによって(正確いうなら、この牧場でお世話になって)、世の中を見る目が変わりました。もともと大学というものに疑問を持っていたのですが、「世の中、色々な生き方があるのだな、」と実感し、退学をしたのです。

「社会人=サラリーマン」と勝手に思い込んでいた私にとって、色々な職業の方々とお話するだけで、自分が如何に小さな世界しか見ていないことに気がつく毎日でした。そして何よりもここのオーナーご夫婦の考え方・行動を間近で見て「こんな生き方が出来たら、気持ちがいいだろうな。」と思うようになりました。


この牧童の求人広告には不思議なことが書いてありました。資格のところに「未経験者のみ」と。
馬に乗った記憶は、子供のころ引き馬に乗ったような気がするくらいで、全くといってもいいほど馬に縁のない人間でした。資格はあるし、自分の全く知らない世界で面白そうだったので、何気なく応募しました。

働き始めた頃は、未経験者でなければならない理由というのが分かりませんでした。しかし日が経つに連れ、まともに馬に乗れるようになるに連れり、馬のことが分かるようになるに連れ、その理由が分かりました。簡単に言ってしまえば、ここのオーナーの乗馬に対する考えは一般的ではないのです。技術で乗るのではなく、気で乗るのです。乗る時だけではなく、世話をするときも。


ここで学んだことは、「動物には言葉は通じないが、気持ちを通じさせることはできる」、ということでした。また動物の方からも常に気持ちを伝えようとしていることを知りました。
全ての動物が人間とそのような関係になれるのではなく、それが可能な動物を人間は家畜化していったのだ、ということにも気がつきました。もともと人間とコミュニケーションをとれる素質をもつ動物のその能力を引き出すような付き合いをしてきたわけです。

このホーム・ページで犬のことについて、専門家でもないのにアレコレ書けるのも、この頃の経験があったからこそです。私の経験や知識は「犬」という視点ではなく、動物全てとその中にいる人間という視点で見たものです。(犬は何処いっちゃたの? と突っ込まないで下さい。)


牧童の頃のお話

恐いお話   痛いお話   牧童の一日


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