昭和29年公布・施行の「狂犬病予防法の一部を改正する法律」を読んでいます。
今回は、(抑留)第六条の改正部分を見てゆきます。ややこしいので色分けします。
理解する上で、大きく分けて3つのことを考えて下さい。
(その1)「第五条の二」が新設された影響
(その2)今迄、全七項だったのが全十項に(三項目増える)。増えた三項目は途中に挿入されるので、今迄の条文の項目番号修正もある。
(その3)以前からあった項目にも
1.(これは簡単)第五条の二が新設されたので、今迄「前条」としていた部分を「第五条」に変更
2.3つの項目が新たに追加される
3.追加される条文は最後に追加されるのではなく途中に挿入されるので、既にあった条文の項目番号が変わる
4.3.影響で、1.の様に指し示す項目の番号が替わるため「前項」が「第〇項」になったり、指し示す項目の番号が変わるなど
5.既にあった項目にも修正、追加あり
a.(公示満了後)「三日以内」→「一日以内」に所有者が引き取らないと処分できる(旧第六項、改正後第九項)
b.a.の項目(公示満了→処分)において、飼い主の申し出があった場合、処分できない「但し書」を追加(旧第六項、改正後第九項)
c.抑留後、所有者が分からない場合の報告先を「抑留した場所」の市町村長、から「捕獲をした場所」の市町村長へ変更(旧第四項、改正後第七項)
以下、条文を引用しますが、上記の分類で色付けしてみました。
それでも分かり難いです。
改正法は、今迄の条文順で修正項目を書いてゆくことを念頭に、今迄の条文と今回の改正法を並べて読んでみてください。
理解が進むとおもいます。
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第六条第一項中「前条」を「第五条」に改め、同条中第七項を第十項とし、第六項中「第四項」を「第七項」に、「三日以内」を「一日以内」に改め、同項に次の但書を加え、同項を第九項とする。
但し、やむを得ない事由によりこの期間内に引き取ることができない所有者が、その旨及び相当の期間内に引き取るべき旨を申し出たときは、その申し出た期間が経過するまでは、処分することができない。
第六条中第五項を第八項とし、第四項中「抑留した場所」を「捕獲した場所」に改め、同項を第七項とし、第三項中「前項」を「第二項」に改め、同項を第六項とし、第二項の次に次の三項を加える。
3 予防員は、捕獲しようとして追跡中の犬がその所有者又はその他の者の土地、建物又は船車内に入つた場合において、これを捕獲するためやむを得ないと認めるときは、合理的に必要と判断される限度において、その場所(人の住居を除く。)に立ち入ることができる。但し、その場所の看守者又はこれに代るべき者が拒んだときはこの限りでない。
4 何人も、正当な理由がなく、前項の立入を拒んではならない。
5 第三項の規定は、当該追跡中の犬が人又は家畜をかんだ犬である場合を除き、都道府県知事が特に必要と認めて指定した期間及び区域に限り適用する。
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引用元
狂犬病予防法の一部を改正する法律・御署名原本・昭和二十九年・法律第八〇号
色分けしてみましたが
とても入り組んでいることが分かると思います。
まず分かり易いこととして、1.の部分(第一項中「前条」を「第五条」に改め)。間に第五条の二が入ったので直さねばなりません。
次に内容以前の三項目追加に注目し、そことその周辺をみてゆきます。
2.の部分(三項目を入れる)、その項目は3~5に挿入される。これも理解出来ると思います。
以前の条文は1~7でしたので、次のようになります。括弧内の数字が以前の項番号。
1(1)、2(2)、3(新)、4(新)、5(新)、6(3)、7(4)、8(5)、9(6)、10(7)
原始的な書き方で恐縮ですが、これだけでも分かり易いと思います。
上記の新旧対応が分かれば、3.の項目番号が変わるも分かると思います。
順番に拾ってみたところ、改正前の項数が多い順に出て来ています。
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第七項を第十項、第六項を第九項、第五項が第八項、第四項を第七項、第三項を第六項
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前から順に、の原則に反しますが、修正中であっても項数が重なることないように、最後から書かれているのだと思います。
なので、それらが書かれた後に三項目の挿入が書かれているのでしょう。
4.は同じ第六条中で、今迄「前項」としていたところを「第二項」と具体的な数字を書いたり、項番号が動いたことによる指し示す番号が変わったり(「第四項」を「第七項」にだけでした)。
これは今回のように色分けすれば理解し易いと思います。
追加された三項目
新たに第三項から第五項として追加された項目を確認したいと思います。
正確なことまでは(私のような一般飼い主が理解することを目的としていますので)理解はするつもりはありません。「だいたい」として、以下のような感じだと思います。
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3 予防員が、この法律に基づき捕獲しようとしている犬が、誰かしらの土地、建物、船舶内に入った場合、捕獲するために必要であれば立ち入ることができる(人の住居を除く)。但し、看守者などが拒んだときはこの限りではない。
4 正当な理由なくして拒んではならない。
5 これらは、「追跡中の犬が人または家畜を噛んだ場合を除き、都道府県知事が指定した期間・区域に限る」。
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なんとなく分かりますよね。今迄、捕まえようとしたら「ここには入らないでくれ!」と言った飼い主が少なからずいたのでしょう。
それで追加したのかなと思ったら、元になる条文がありました。狂犬病予防法は家畜伝染病予防法から独立しましたが、その家畜伝染病予防法に似たような条文がありましたので、その辺りのことを次の段落に書きます。
この条文の元となるのは、「家畜伝染病予防法(大正11年4月8日法律29号)」内で示されている「臨検」。これを読むのはとても苦労します。
とても有難いことに、みやざき・市民オンブズマンという団体の現代語訳のページを作ってくださっていますので、そちらを参考になるといいと思います。
基礎知識として、この法律は家畜全般の伝染病を扱うものであること。担当するのは家畜防疫委員なる専門職も書かれいますが警察官吏(現在の警察官)も担当します。
また、家畜の移動に飛行機を使うことはなく、検疫は船の出入りをチェックしていました。その担当は検疫官吏。
この法律の第十五条に「警察官吏又は家畜防疫委員は、伝染病予防上必要があると認めるときは、畜舎、船車、その他家畜が所在する場所を臨検することができる。」と書かれています。
さらに第二十一条は「検疫官吏は、伝染病予防上必要があると認めるときは、船舶に臨検し、航海日誌その他の書類を検閲することができる。」
(引用元は上記、みやざき・市民オンブズマンという団体の現代語訳のページ)
臨検とは、簡単に言えば「立入検査」。
昔の世の中の法律ですから臨検が「できる」と書かれていて、拒んだ場合のことは書かれておらず、従わなかった場合のことは罰則規定にあります。
第二十七条 左の各号の一つに該当する者は、三百円以下の罰金に処する。
(略)
四 正当な理由が無く、第十五条の規定による臨検、又は第二十一条の規定による臨検もしくは検閲を拒み、妨げ、もしくは忌避し、又は尋問に対し答弁をせず、もしくは虚偽の答弁をした者。
(引用元は上記、みやざき・市民オンブズマンという団体の現代語訳のページ)
この三百円がどれくらいの価値なのかきになりますが、狂犬病予防法(昭和25年成立時)の登録手数料が三百円です。このことを考えてみたページはこちらになります。
このページ内からリンクしている、
「6. 給料・賃金(その1-職種共通)」(@明治・大正・昭和・平成・令和 値段史(コインの散歩道))の表で考えたいと思います。
国家公務員の大学初任給が75円となっています。現在はだいたい20万円と書かれています。なので、
300÷75×20万 = 80万円
三百円「以下」ではありますが、大学初任給の4倍くらいまでの罰金となる犯罪行為だったのです。
(現在の家畜伝染病予防法では、検査は第五十一条、その罰則は第六十八条で三十万円以下の罰金になっています。参照元:家畜伝染病予防法 | e-Gov法令検索)
ちなみに、第十五条に続く条文を読むと「狂犬病予防法はこの辺りからきているのか」と気付きます。それが今の狂犬病予防法に続いているのです。
この時の家畜伝染病予防法は昭和二十六年に廃止制定されています(参考:こちらのページの附則を読んでみてください、廃止制定に付いてはこちらのページに書きました)。昭和26年は敗戦後GHQ占領下。一度今までの法律を廃止し、構築し直しをしています。しかし狂犬病予防法は...。
新たに追加された第四項の罰則は?
直前までに解説した「家畜伝染病予防法」の臨検は「伝染病予防上必要があると認めるとき」に行われるものであり、そのような状況でなければ行われないことになります。
狂犬病予防法において、これはどのような状況かと考えると「通常措置」ではなく「狂犬病発生時の措置」にあたるものだと考えられるので、罰則は(通常措置の)第六条を準用する(狂犬病発生時の措置の)第十八条に違反した時に適用されるものだと考えます。
第十八条にて、狂犬病発生時にけい留の命令が出ているのに、それをしない犬は捕獲され抑留されることになっています。その捕獲~抑留の過程のことは、第六条第二項から第十条の規定を準用します。
この過程で立入を拒んだ場合の罰則として、この改正で「第二十八条」を追加しています。
以下に第二十八条を載せておきます。
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第二十八条 第十八条第二項において準用する第六条第四項の規定に違反した者は、拘留又は科料に処する。
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(参考)
拘留と勾留は違います。拘留は刑事罰です。
拘留については、以下のページに分かり易く説明がありました。
拘留とはどんな罰? 前科はつく? 拘束される期間や勾留との違い|刑事事件に強いベリーベスト法律事務所 @ ベリーベスト法律事務所
科料についても、過料と混同される方がいます。
この点についても同じ法律事務所のサイト内に丁寧な説明がありました。
科料で前科はつく? 科料、罰金、過料の違いについて詳しく解説|刑事事件に強いベリーベスト法律事務所 @ ベリーベスト法律事務所
5.の三項目(抑留の後の手続き)
a.と b.はどちらも、旧第六項、改正後第九項なので一緒に見てゆきます。
改正前の流れ
抑留 ~ 所有者が知れている場合は引き取るべき旨を所有者に通知、所有者が知れていない場合は犬を抑留した場所を管轄する市町村長に通知 ~ 所有者に通知した場合は通知を受け取った後、市町村長に通知した場合は二日間公示の公示期間満了後三日以内に所有者が引き取らないと ~ 処分することができる
改正後の流れ
抑留 ~ 所有者が知れている場合は引き取るべき旨を所有者に通知、所有者が知れていない場合は犬を捕獲した場所を管轄する市町村長に通知 ~ 所有者に通知した場合は通知を受け取った後、市町村長に通知した場合は二日間公示の公示期間満了後一日以内に所有者が引き取らないと ~ 処分することができる
但し、所有者から申し出があれば、その期間は処分することができない。
連絡くれれば待ってあげる、その代わりに、今迄三日待っていたのを一日にしちゃうからね、という感じでしょうか。
通知を受け取ってから一日というのは(今の時代の感覚からすると)「酷い!」と言いたくなります。
通知については以下のページもお読みください。
狂犬病予防法施行規則 厚生省令第五十二号 昭和二十五年九月二十二日 (所有者への通知)第十四条
この施行規則もあることだし、一日でいいじゃない?、ということになったのかな。
改正後の第六条
※引用元はありません、素人の私が昭和25年の制定条文、昭和28年および昭和29年(ここ)の改正を読んで作ってみたものなので、間違っている可能性は大です※
第二章 通常措置
(抑留)
第六条 予防員は、第四に規定する登録を受けず、若しくは鑑札を着けず、又は第五条に規定する予防注射を受けず、若しくは注射済票を着けていない犬があると認めたときは、これを抑留しなければならない。
2 予防員は、前項の抑留を行うため、あらかじめ、都道府県知事が指定した捕獲人を使用して、その犬を捕獲することができる。
3 予防員は、捕獲しようとして追跡中の犬がその所有者又はその他の者の土地、建物又は船車内に入つた場合において、これを捕獲するためやむを得ないと認めるときは、合理的に必要と判断される限度において、その場所(人の住居を除く。)に立ち入ることができる。但し、その場所の看守者又はこれに代るべき者が拒んだときはこの限りでない。
4 何人も、正当な理由がなく、前項の立入を拒んではならない。
5 第三項の規定は、当該追跡中の犬が人又は家畜をかんだ犬である場合を除き、都道府県知事が特に必要と認めて指定した期間及び区域に限り適用する。
6 第二項の捕獲人が犬の捕獲に従事するときは、第三条第二項の規定を準用する。
7 予防員は、第一項の規定により犬を抑留したときは、所有者の知れているものについてはその所有者にこれを引き取るべき旨を通知し、所有者の知れていないものについてはその犬を捕獲した場所を管轄する市町村長にその旨を通知しなければならない。
8 市町村長は、前項の規定による通知を受けたときは、その旨を二日間公示しなければならない。
9 第七項の通知を受け取つた後又は前項の公示期間満了の後一日以内に所有者がその犬を引き取らないときは予防員は、政令の定めるところにより、これを処分することができる。但し、やむを得ない事由によりこの期間内に引き取ることができない所有者が、その旨及び相当の期間内に引き取るべき旨を申し出たときは、その申し出た期間が経過するまでは、処分することができない。
10 前項の場合において、都道府県は、その処分によつて損害を受けた所有者に通常生ずべき損害を補償する。
(次回)
今回の第六条の改正と前の第五条の二の追加が理解をするのに時間がかかる箇所。
次回から軽く進めていきます。
もし内容に間違いがあることをお気づきの場合、疑問点がおありの場合等、以下の「こちらから」ご連絡いただければ幸いです。
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