昭和29年公布・施行の「狂犬病予防法の一部を改正する法律」を読んでいます。
・(適用範囲)第二条の修正
第二条は、基本的に「犬」を対象としますが、それ以外の動物も対象にしますよという内容。
修正箇所は「それ以外」の話。
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第二条第一項中「家畜伝染病予防法(大正十一年法律第二十九号)第一条第一項に掲げる家畜」を「犬、牛、馬、めん羊、山羊、豚、鶏及びあひる」に改める。
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原文は以下
狂犬病予防法の一部を改正する法律・御署名原本・昭和二十九年・法律第八〇号
(今回も一行だけ)
第二条第一項中「家畜伝染病予防法(大正十一年法律第二十九号)第一条第一項に掲げる家畜」を「犬、牛、馬、めん羊、山羊、豚、鶏及びあひる」に改める。
今回は少々細かい話をします
参考までに元の第二条はこちら
・家畜伝染病予防法(大正十一年法律第二十九号)
この時(昭和29年)にこの法律はなくなっています。
昭和26年に廃止制定されて(同じ名前で)別の法律になっています。
この法律の第一条第一項は、この法律の中で「家畜」と称する動物全てを列挙しています。その内容は今回の改正法で書かれた(犬を除く)「犬、牛、馬、めん羊、山羊、豚、鶏及びあひる」(一部昔の漢字が使われていますが内容は同じ)です。
大正十一年の法律が生きていた時は、犬以外の狂犬病が発生した場合、家畜伝染病予防法で対象になっている動物はそちらで。対象になていない動物はこちら(狂犬病予防法)で、と適用範囲を分けていました。
・家畜伝染病予防法(昭和二十六年法律第百六十六号)
昭和二十六に廃止制定された後の法律では(法律全体ではなく)伝染性疾患ごとに対象となる動物が指定されています。
狂犬病の欄を見ると「牛、馬、めん洋、山羊、豚」となっていて「鶏及びあひる」は入っていません。
そもそも、狂犬病は哺乳類に感染するもので、鳥類に感染した話を聴いたことがないので不思議でなりません。
「現在の狂犬病予防法では削除されているだろう」と確認すると、なんと入っています。
日本で製造されている(人間用の)狂犬病ワクチンがニワトリ胚細胞で培養されていることは読んだことはありますが、鶏が感染した事例読んだことがありません。
狂犬病に感染する動物を「哺乳類」としているものと「温血動物」としているものがあることは記憶にあります。
しかし「全ての温血動物に感染可能と考えられている」などの表現であり、具体的に鳥類の感染事例や感染時の特徴などを記したものを読んだ記憶はない。
この疑問は改正時の資料を読んでいて理解できました。
この改正時に追加された「第五条の二 犬の引取」が出来るまでの資料として以下のページに紹介したものがあります。
昭和29年改正 資料の中の小冊子2つ
60ページもある資料の中に、一般向けの小冊子が二つ収録されています。その中の一つ「狂犬病の話」の中で「鶏の狂犬病もあります」と書かれています(13/60ページ)。
日本に狂犬病があった当時、犬やイヌ科の野生動物が感染し、それらから牛や馬などが感染することも問題になっていましたが、同様に鶏にも感染したのかもしれません。感染した鶏は、犬や狐に噛まれていますから、もう人間を感染させる体力もないし(狂犬病の感染よりも)負傷で死に至ったのではないかと想像しています。
(参考:令和6年現在の狂犬病予防法の(適用範囲)第二条の一部)
二 猫その他の動物(牛、馬、めん羊、山羊、豚、鶏及びあひる(次項において「牛等」という。)を除く。)であつて、狂犬病を人に感染させるおそれが高いものとして政令で定めるもの
(引用元)狂犬病予防法(昭和二十五年法律第二百四十七号)
(参考:令和6年現在の「政令で定めるもの」)
(法の規定の一部が適用される動物)
第一条 狂犬病予防法(以下「法」という。)第二条第一項第二号の政令で定める動物は、猫、あらいぐま、きつね及びスカンクとする。
(引用元)狂犬病予防法施行令(昭和二十八年政令第二百三十六号)
この記述が初めて出てきたのは平成10年の「検疫法及び狂犬病予防法の一部を改正する法律」「検疫法施行令及び狂犬病予防法施行令の一部を改正する政令」。
(参考:令和7年現在の家畜伝染病予防法の(定義)第二条の一部)
五 狂犬病 牛、馬、めん羊、山羊、豚
(引用元)家畜伝染病予防法(昭和二十六年法律第百六十六号)
(参考:昭和26年制定時の家畜伝染病予防法の(定義)第二条の一部)
六 狂犬病 牛、馬、めん羊、山羊、豚
(引用元)法律第百六十六号(昭二六・五・三一)◎家畜伝染病予防法
制定時から「鶏及びあひる」はありません
・修正した結果を書いておきます
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(適用範囲)
第二条 この法律は、動物の狂犬病のうち、犬の狂犬病に限りこれを適用する。但し、厚生大臣は、犬、牛、馬、めん羊、山羊、豚、鶏及びあひる以外の動物について狂犬病が発生して公衆衛生に重大な影響があると認めるときは、動物の種類、期間及び地域を指定してこの法律の一部を準用することができる。この場合において、その期間は、一年をこえることができない。
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万が一、鶏やあひるが狂犬病になったら、どうするんでしょうか。
たぶんならないので、考えなくていいでしょうね。
・法律を読み続けておもったこと
私はカルチャースクールやましてや大学で法律を勉強したことはありません。ペット関係の法律を読み続けているだけです。そんな人間でも気付くこともあります。
今回の「鶏及びあひる」ように「常識で考えたらおかしい」と感じることでも消さないことがあります。万が一起きる可能性があるかも程度のことでも残しておくのが定石みたいです。
(次回)
今でも話題にでることがある「犬の引取り」について。
現在の「動物の愛護及び管理に関する法律」第三十五条(犬及び猫の引取り)制度が法律で初めて書かれたときのことです。
もし内容に間違いがあることをお気づきの場合、疑問点がおありの場合等、以下の「こちらから」ご連絡いただければ幸いです。
2024.6.24 鶏への感染について考察を追記
2025.3.13 家畜伝染病予防法(昭和26年)制定時の家畜の種類を追記
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