現在も狂犬病予防法はあり、基本的な部分ではこれから取り上げる昭和25年の狂犬病予防法と大きく変わった部分はありません。他の法律との関係での改正がほとんどの様です。
例えば「動物の保護及び管理に関する法律(以後、動物保護管理法)」が昭和48年に成立し、狂犬病予防法(昭和25年成立時にはなかった)第5条の二(犬の引取り)が削除されます。

令和元年改正の「動物の愛護及び管理に関する法律(以後、動物愛護管理法)」にはマイクロチップの記述が入って来ます。その前の改正(平成25年)時には附則にて、これから前向きに検討してゆく旨が書かれていました。

動物愛護管理法でのマイクロチップの本来の利用目的はトレーサビリティであったと記憶していますが、飼い主さんにとっては鑑札の役割が出来ることの方が馴染みがあるとおもいます。

ちなみに令和6年現在の狂犬病予防法には「マイクロチップ」という単語は出てきません(狂犬病予防法施行規則にはでてきます)。

(参考)狂犬病予防法施行規則で「マイクロチップ」が出てくる条文
 (鑑札の内容等) 第五条
 (マイクロチップが装着されている犬に関する読替え) 第十六条の二
 (動物愛護管理法第三十九条の七第五項の届出) 第十六条の三
 (鑑札の提出) 第十六条の四
 (マイクロチップが装着されている犬の所在地の変更に係る通知) 第十六条の五
 (マイクロチップが鑑札とみなされない場合の鑑札の交付等) 第十六条の六

ここまで読めばお分かりだと思います、令和6年現在の動物の愛護及び管理に関する法律に「鑑札」という単語は出てきます。

(参考)動物の愛護及び管理に関する法律で「鑑札」が出てくる条文
 (狂犬病予防法の特例) 第三十九条の七 (マイクロチップを鑑札とみなす規定が書かれています)


最近話題になったこととしてマイクロチップを取り上げましたが、狂犬病予防法動物の愛護及び管理に関する法律はとても近しい関係にあります。
動物の愛護及び管理に関する法律は、昭和48年(1973年)成立・施行ですが、狂犬病を撲滅しようと狂犬病予防法を成立させ改正していた頃にもその機運があったそうです(動物虐待防止法、昭和26年法案立案まで)。その動きは狂犬病対策と無縁ではありませんでした。
当時の日本動物愛護協会理事長、齋藤弘吉先生は、狂犬病予防審議会に何年も携わっていた人ですが、動物虐待防止法成立に尽力した人でもあります。

このように、今の動物の愛護及び管理に関する法律と狂犬病予防法は根幹部分で繋がっていることもあるので、狂犬病予防法の基本を知っておく必要があると思いますが、今の狂犬病予防法動物の愛護及び管理に関する法律も大きくなっているし分かり難いです。なので(今と比べるとシンプルな)成立当時から狂犬病を撲滅するまでの狂犬病予防法を取り上げます。
法律の骨格部分は今と変わらないので、現在の狂犬病予防法を読む時にも参考になります。

犬と暮らす人が多くなった現在であること、また、この法律は(犬ではなく)人間の為の法律であることから、広く一般の方々が知っておく必要があると私は考えています。




動物愛護管理法との関係

動物愛護管理法を読んでいると「何故?」とおもうことがある。その理由が狂犬病予防法だと分かることがある。

その一つとして「犬の引取り」があります。これについては既にこちらのページで説明していますが、改めて簡単に書きます。

もう一つは、令和5年現在の動物愛護管理法では第四十四条4一、昭和48年成立当時は第十三条2一に「牛、馬、豚、めん羊、やぎ、犬、ねこ、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる」とあります(令和5年現在と昭和48年成立時では「やぎ」が「山羊」、「ねこ」が「猫」と漢字表記に替わっている)が、これが何処からきたのか不思議でした。特に「あひる」がここに選ばれる理由が分かりませんでした。
昭和48年当時「あひる」が広く飼育されていたとは考えられませんし、今となっては「いえばと」も飼育している人が少なく、他にここに入れるべき動物種があるのではないかと感じていました。

その疑問が解けたのは、狂犬病予防法を遡って読んでいるときでした。


 犬の引取り

昭和48年成立時の動物保護管理法時には第七条、令和6年現在の動物愛護管理法では第三十五条の「犬及び猫の引取り」が狂犬病予防法から移ってきたことは、既にこちらのページで説明しています。

そちらのページで説明した狂犬病予防法第五条の二は狂犬病予防法が成立した昭和25年にはなく、昭和二十九年四月三十日法律八十号の狂犬病予防法の一部を改正する法律にて定められ、昭和48年の動物保護管理法時に移ったことで削除されていますので、探すのに少々苦労します。

なので今回(昭和25年成立時)の説明では取り上げません。昭和29年(1954年)狂犬病予防法の一部を改正する法律で取り上げます。


 牛、馬、豚、めん羊、やぎ、犬、ねこ、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる

上記昭和二十九年四月三十日法律八十号の狂犬病予防法の一部を改正する法律をご一読された方であれば、狂犬病予防法が関係し、さらに家畜伝染病予防法と関係があることに気付かれたと思います。

改正法律の中では(手書きで)「犬、牛、馬、めん羊、山羊、豚、鶏及びあひる」と順番が違うものもあるし「ねこ」と「いえうさぎ」「いえばと」がありません。

これら以外の動物について ~ 狂犬病が発生して公衆衛生に重大な影響があるとみとめるときは(中略)この法律の一部を準用することができる。(後略) ~ と書かれています。
これらの動物についての狂犬病についての定めは、家畜伝染病予防法第二条表中五で定められています。

家畜伝染病予防法は戦後(昭和二十六年)に成立(作り直し)した時点で「牛、馬、めん羊、山羊、豚」で「鶏及びあひる」はありません(令和5年現在も)。
但し、戦前の家畜伝染病予防法(大正十一年)では、第一条に動物種と伝染病名が(表にならずに)一文で羅列していて、そこには「鶏及鶩」=「鶏及びあひる」が含まれています。
令和5年現在の狂犬病予防法の第二条一項二には、「猫その他の動物(牛、馬、めん羊、山羊、豚、鶏及びあひる(次項において「牛等」という。)を除く。)」の記述があり、「鶏及びあひる」が含まれる。
現在の常識では、狂犬病は鳥類に伝染しないとされているのでここに「鶏及びあひる」が入っているのが不思議です。

令和6年現在の動物の愛護及び管理に関する法律に「牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる」が出てくるのは、第六章 罰則 第四十四条 第四項 の愛護動物の説明の部分です。


動物の愛護及び管理に関する法律のスタート(動物の保護及び管理に関する法律)時に、何かと狂犬病予防法の影響を受けているのです。



参考:
狂犬病予防法・御署名原本・昭和二十五年・法律第二四七号 @ 国立公文書館デジタルアーカイブ




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2023.8.262023.9.1
2024.09.01 鑑札とマイクロチップの関係の部分:自分で読み直して分かり難いと感じたので大幅修正
2023.8.26 公開
#法律 #狂犬病 #狂犬病予防法 #1950 #動物愛護管理法