2月6日(その7)
家に着いたのはもう6時を過ぎていた。この頃には、視界も曇った感じで少し緑がかっていた。初めての体験に少し怖くなった。そんな僕が、まずしたことはアクエリアスをがぶ飲みしたことだ。とにかく泡盛を小便にして出してしまいたかった。口から出すことの出来ない人間にはこれぐらいのことしか考えつかない。しかし、この行為が地獄への切符となったようだ。気持ち悪さは腹の中でどんどん膨らみ、頭の中は曇りながらもすごいスピードで流れていく。何が流れているのかはよく分からない。とにかく騒がしいのだ。
もう動けない。這いずってソファーの前に行くのがやっとだ。ここで仰向けになり作業着やズボンを自分の腕を這わせるようにしてゆるめた。この頃から、視界がおかしくなってきた。本格的に全てが緑色だ。天井の梁はサトウキビに見える。そこに巻き付いている電気のコードは、僕のキビ狩りを邪魔するつる草に見える。その他、棒状のものはサトウキビに、紐状のものはつる草に見える。自分の体も緑だ。作業服もトタンの天井も全てが畑の中の緑だ。
色が緑色に見えることは確かに何度確認してもその通りだ。しかし、サトウキビやつる草に見えるのは、自分に「よーく見るんだ」と言い聞かせると、天井の梁なり、電気のコードに見える。しかし、そんな気力は続かない。目を開けているのも疲れる。だからと言って「ボー」とすると、スーっと目が勝手に開いてしまう。ハッと気づくとサトウキビとつる草が僕にのしかかるように襲ってくる。「違うんだ。そんなことはないんだ。」と、もがきながら叫ぶ自分の頭と、勝手に襲われている自分を作り出してしまう自分の頭がすごいスピードでステレオ放送してくれる。そして突然途切れたりする。きっとほんの少しだけ寝ているのだろう。
この頃、もう体は完全に動かない。どこからか音がする。ガラガラと音がする。そして誰かが話しかけてきた。「何してるー」。NSさんだ。NSさんが帰ってきた。心配して声を掛けてくれたようだが、こっちはしゃべりたくない。「大丈夫」と無気力に答えると聞こえないようで問い返してくる。「動けなーい。もう動けなーい」と言い、この後2、3の言葉を交わした。何を言ったか覚えていないが、NSさんは僕のことを心配して明日の仕事は午後からで良い、と言うことになった。そしてNSさんはどこかへ行ってしまった。最近、毎晩飲んでいるようだ。

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