2月6日(その5)

悲しき僧侶は進んだ。無心に荒行を続けた。自分を滅して太陽と一体になった。もう死んでもいいと思った。どうでもいいと思ったのかも知れない。自分は畑の中のデンデン虫より小さな存在に思えた。何でも出来る不死身の体を身につけたようにも思えた。
畑のはずれで一人寂しく作業をする僕は、時々遠くで聞こえるおばさん達のしゃべり声を不思議な気持ちで聞いていた。皆元気だ。でもどうでもいいことだ。
確実に進む。前に進む。しかし、いつも以上に辛い。考えれば考えるほど辛くなってくる。今まで経験したキビ狩りの中で一番つらいラウンドだ。そして、この一角の終わりが見えてきた頃、つる草が登場した。NSさんの所の物に比べればかわいい物であるが、やはり仕事の邪魔になる。リズムが崩れると体が締め付けられる。イライラすると頭が壊れそうになる。そんなことをしていると、この畑のNo.2らしきおじさんがやって来た。「どうした」と言うので「つる草が邪魔でうまい具合に進まない」と言うと、ニヤッと笑って僕を見た。悔しくなって「大したこと無いですけど」などと答えた。当たり前だと言わんばかりの顔をして、笑いながらうなずいて去っていった。手を休めて話をすることはとてもつらかった。
任された一角を何とか終わりそうになった頃、「もう5時だ終わりだー」の声が聞こえてきた。終わりが目の前にあったので聞こえない振りをして作業を続ける。あと2列ぐらいの時にご丁寧に使いの人(一度見回りに来た人)が「もうやめろ」と言いに来た。しかし、やめるわけには行かない。使いの人は「止めないわけには行かない。」と言う感じで僕に言う。僕が「あと少し」と言いながら無表情に作業を続けると、後ろの方から、主の声が飛んでくる。「もう終わりだー」。僕は「あと少しー」と答えると、やや間があって「やってから上がれー」に変わった。どうにかこの一角をやらせてもらえた。やり終えることが出来た。