1月25日 : 一日中雨
早速、本格的な雨の中のキビ狩り。カッパを着ての作業。むれて非常に不快だ。こんな状態で一日過ごすと思っただけで嫌になってくる。
今日は手伝いの人が来た。雨で現場が休みだから来たと言う。とにかくよく働く人で、僕の3倍は働いていた。

やっとの事でお昼になった。ただでさえ長く感じる時間が今日は更に長く感じる。手伝いの人は家に戻ったみたいだ。この(東京の感覚で言えば)豪雨の中、どこでご飯を食べるのだろうと思ったら、NSさんは何か二、三言早口で言って、僕に弁当を渡し、車に乗って一人でどこかへ消えてしまった。バイクで追いかけようと思ったその時はもう車は見えなかった。雨の中、弁当を持って独りぼっちになってしまった。
とにかく弁当を食べなければいけない。どこで食べても雨の中。木の下に入っても雨は降ってくる。少しは違うと思い、農道沿いのクバの株の下で食べることにした。
一人で弁当を食べていると、隣の畑から、HSさんと名乗る人がやって来て、声をかけてきた。隣の畑といっても防風林があり、今まで姿は見えなかった。豪雨の中、一人での寂しい昼食の時の一声だった。それだけで助け出された気分になった。

一緒にご飯を食べようと誘ってくれたので、食べかけの弁当を持って隣の畑に移動した。今まで見えなかったが、そこには10人近くの人間がいた。そのうち4人は内地の若者で女の子も1人いた。雨の中でも人と話をしていれば気が紛れるものだ。少しは明るい気分になれた。
このHSさんという人はやたらと立松和平氏の話をする。知り合いだと言うのだ。後で本を見てみたら、このおじさんの写真が載っていた。立松氏がキビ狩りに来る時にお世話をしているらしい。
一時になると、NSさん、僕、手伝いの人、の三人で何事もなかったかのように、仕事を再開した。今日は手伝いの人のお陰でとてもはかどった。


夜も雨が降り続いたので美奈子への電話はなし。
NSさんと一緒に住んではいるものの晩御飯は別なので夜はあまり顔を合わせない。この日もNSさんは遅く帰って来た。僕はもう寝ていた。だいぶ酔っていて島の言葉で何やら僕に向かって言っているが何を言っているのかわからない。とりあえず起きてようく聞いてみたが、ただ聞き取れた言葉は「ゴメンナサイ」と言う言葉だった。「何のことですか」と聞き返すと「何のことってことはないでしょう」と怒鳴りだした。後で考えればお昼のことを謝っていたのだと思うが、寝込みにいきなり「ゴメンナサイ」とくだをまきながら言われても何のことやらわからなかった。

島の人はよく酒を飲む。酔っぱらうことを島の言葉で「びーたれる」と言うそうだが、「びーたれ」になったら手が付けられないと聞いていた。しかし、一応会話は出来るようだ。東京あたりのぷっつん酔っぱらいよりは、ましである。

NSさんはお酒を飲んでも車を運転することがある。一度も事故を起こしたことは無いと言う。しかし久野さんに聞いてみたら「あの人、車ごと川に落ちて、みんなで引き上げたことがあるよ」と言っていた。後日確認すると、照れ笑いしながら認め、「それだけよ」と言った。