1月20日(その4)
この日の夜、ユキさんちで久野さんの誕生日パーティーがあった。パーティーのことはあまり覚えていない。これからのことで頭がいっぱいで上の空だったことを覚えているだけだ。

帰り道の途中で美奈子に電話をかけた。ちなみに家には電話はなく、電話ボックスから電話をかけることになる。
チェロのことを少し話し、こちらに送って欲しい物を何点か頼んだところで35度あったテレホンカードは終わってしまった。
この時頼んだ物は、健康保険証、ワイシャツ、シャンプー、石鹸だけである。

僕はあの家(小屋?)へと「帰った」。これからここが僕の家なのだ。今日は晩御飯もパーティーでご馳走になったし、あとは風呂へ入って寝るだけである。しかし今日は寒い。気温で言えば10度以上あるのだが、お風呂は湯船もなく、土間にあるため風呂場全体を暖めることも出来ない。気温10度ちょっとの所ですきま風を受けながらシャワーを浴びる気にはならない。今日は省略しよう。

次は寝床をどこにするかだ。候補地は一畳だけの畳ベットと応接セットの長椅子の二つだ。せっかくベットがあるのだから畳ベットに寝ることにした。
寝る前の小便は久野さんから借りた懐中電灯で安全に行うことが出来た。このころすでに小雨が降っていた。一畳(いちじょう)畳ベットに寝ると小雨がトタンの屋根をなでる音が気になって眠れない。「サー」といった感じのテレビの砂の嵐の音を優しくしたような音だが、テレビというものが生活の中に長年存在しない私にとっては、聞き慣れない音が永遠に続くようで落ちつかなかった。

この布団の中で一日目は終わった。