1月20日(その1)
ここは与那国空港。私が今朝出発した羽田空港に比べても、ほんの1時間前にいた石垣空港に比べても、豆粒のような空港だ。高校の教室2つ分程度のロビーである。その狭いロビーの中に無造作に設置された緑色の電話機から、足早に久野さんの所へと戻り簡単な挨拶を済ませた。
ロビーから外に出ると、そこに待っていたのは、いつもの久野さんのトラックではない。久部良にあるダイビングショップのワンボックスだ。後ろの席には、女性が一人とその人の子供が2人。子どもの一人が(字は違うが私と同じ)アキヒサだという。こういうことは妙に記憶に残るものだ。久野さんとは個人的な関係の人らしく、この人達の観光ガイド中だそうだ。そして、私もその島めぐりに同行させていただくことになった。
祖内の部落や一億円の墓、東崎など与那国観光の定番を回り、最近飛来しているコウノトリを見に行った。コウノトリがよく来ると言われている場所へ行くが鳥らしいものはどこにも見えなかった。しかし、10分ぐらい目を皿のようにして探していたら、運良くコウノトリを見ることが出来た。山陰から一羽また一羽、と姿を現し、全部で7羽確認することが出来た。
鳥のことがさっぱり判らない私が見ると、コウノトリは丹頂鶴によく似た鳥だ。そんな鳥が高さ30〜50m位のところで、海からの風を受けて止まっているように見えた。丹頂鶴に似ているためか、南のこの島に不釣り合いに思えた。
観光案内中、久野さんの腕時計のアラームがなった。その直後、久野さんは私と二人きりになったとき、私の耳元に何やら囁いた。私は、その内容の意図することが分からなかったので、曖昧な返事をして聞き流した。後でわかったことだが、このアラームは「夕方の動物の世話」の時間を告げるもので、久野さんはそれを後回しにする言い訳を私に告げていたのである。
曖昧な返事と言えば、祖内のはずれを通りかかった時、久野さんが車を止め、田圃で重機を使っている人に声をかけた。ちょうど重機がオーバーヒートしたところでエンジンルームをいじくっていた。二人でキビ狩りのことを話していたが、久野さんが「じゃあまた後で」と話を終わらせると「あの人がNSさんだ」と私に言った。この時も「?」と思ったが曖昧な返事をして聞き流した。
後でこの人の世話になることを聞かされて、「よく見ておけば良かった」と思いもしたが、「どうせ選択権はないのだから、なるようになれだ」と開け直ったりもした。

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