昭和29年公布・施行の「狂犬病予防法の一部を改正する法律」を読んでいます。
・(犬の引取)第五条の二 の 追加
現在の「動物の愛護及び管理に関する法律」の(犬及び猫の引取り)第三十五条、その元になった「動物の保護及び管理に関する法律」の(犬及びねこの引取り)第七条の、更に元になった条文。
(このページ内の引用・参考元)
法律第百五号(昭四八・一〇・一)◎動物の保護及び管理に関する法律
動物の愛護及び管理に関する法律(昭和四十八年法律第百五号)
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第五条の次に次の一条を加える。
(犬の引取)
第五条の二 予防員は、犬の所有者からその犬の引取を求められたときは、これを引き取つて処分しなければならない。この場合において、予防員は、その犬を引き取るべき場所を指定することができる。
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引用元は以下
狂犬病予防法の一部を改正する法律・御署名原本・昭和二十九年・法律第八〇号
(一行目)
第五条の次に次の一条を加える。
「第五条の二」と見ると、五条に関係しそうなものですが、関係のない(独立した)「一条」です。
一条加えることによって、そこから後ろの第○条の数字が変わってしまうと面倒になるので、このようなことをするみたいです。
法律原本の冒頭には書いてあります。
ちなみに第五条は(予防注射)、第六条が(抑留)。
(二行目)
(犬の引取)
(抑留)第六条とどう違うのか?
当時の第六条の冒頭部分を引用します。
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予防員は、第四に規定する登録を受けず、若しくは鑑札を着けず、又は前条に規定する予防注射を受けず、若しくは注射済票を着けていない犬があると認めたときは、これを抑留しなければならない。
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狂犬病予防法違反している犬を抑留するのであって、(引取)つまり犬の所有者からの求めで引き取るのではありません。
(三行目)
第五条の二 予防員は、犬の所有者からその犬の引取を求められたときは、これを引き取つて処分しなければならない。この場合において、予防員は、その犬を引き取るべき場所を指定することができる。
先にも書いたように、現在の「動物の愛護及び管理に関する法律」の(犬及び猫の引取り)第三十五条、その元になった「動物の保護及び管理に関する法律」の(犬及びねこの引取り)第七条の更に元がこちらになります。
この改正以前
昭和25年公布・施行された狂犬病予防法(狂犬病対策)では、登録と予防注射を義務付け、それらを済ませた犬には鑑札や注射済票を着けることを義務付けました。それらがない犬は抑留され、飼い主が引き取りに来なければ処分していました。
これは、町中(人間の生活圏)に自由に出歩いている犬の存在が、狂犬病の温床を作り出すことになると考えていたからです。
この考えは狂犬病について研究している人たちは誰しもが考えていたことであり、GHQの後押しもあり、昭和25年に狂犬病予防法が成立・公布・施行されますが、撲滅までには至りませんでした。
しかしそれだけでは町中を自由に出歩く犬をなくすことが出来ず、狂犬病を撲滅をすることは出来ませんでした。
登録されていない犬は抑留され処分されてゆきました。しかし放されている登録されている犬は抑留されても、飼い主の下に戻す条文しかありません。
有料の登録や予防注射が負担に感じるようになる飼い主もいたのでしょう。次ページに書きましたが、この条文がこの形になるまでに「犬捨場」なる言葉も出てきました。飼い主がその立場を放棄するのですから、庶民的な言葉でいえば、そのようになるのだと思います。
昭和25年当時はGHQの占領下であり、占領は昭和27年まで。今回読んでいる改正が成立した当時は占領下ではありません。自分達で対策を考え撲滅を目指すことになります。
その過程で「犬捨場」という言葉を法律に盛り込むことを考え、最終的に「犬の引取」に落ち着いたのだと思います。
昭和29年の改正
先に書いたように昭和25年成立時の狂犬病予防法を運用していただけでは狂犬病の撲滅には至りませんでした。
登録を義務づけても放す飼い主もいたし、夜中にこっそり放す習慣をもっていた人たちの多かったと思います。
昭和40年台までは、東京23区内でも夜になると犬を放すことは珍しくなく、その結果として町中に犬の糞をよく見かけたと言われています。
昭和40年台に入ってもそのようなことがあったくらいなので、20年台後半であれば感覚的に「夜くらいは犬を放すのが当たり前」としていた人がいたことは想像できます。
そこに昭和25年の狂犬病予防法が出来て戸惑う飼い主も少なからずいたと思います。
そこで、既に登録している犬を引き取る条文を作ったのだと想像しています。
昭和25年に狂犬病予防法が公布・施行後すぐに狂犬病予防法施行規則が出来ます。その中に(死亡及び所有権の放棄)第八条があり、所有権を放棄しようとしたときは、鑑札と注射済票を添えて届出ることになっています。しかし、犬に付いては何も書かれていません。つまり、手続き上、飼い主ではなくなるだけで、犬のことなど考えていないのです。
当時の状況としてこのようなことがあったからだと想像していますが、所有権を放棄するときの犬の扱いを決めることで、狂犬病予防法を守れない飼い主に管理されている犬の対策をしようと考えたのだと想像しています。
(次回)
この条文(現在の動物の愛護及び管理に関する法律 第三十五条)は今でも時々話題になります。また、昭和29年の改正の中で最も大きな変化だと思います。
なので、ここまでのことをしなければならなかった状況とはどのようなものなのか、次回、さらにその次の回で考えてみたいと思います。
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