ほとんどの人はこの単語の意味はなんとなく分かっているとおもいます。私は「なんとなく」までしか分かりません。
単語を理解する時に幾つかの「使い方」を参考にしますが、私は「動物愛護」以外の使い方を見つけることができません。
幾つかの辞書を調べてみると、動物愛護以外の使い方を載せているものもありましたが、それを読んで「その使い方、今まで見たことない」ものであり、そこからこの単語の理解を深めることは出来ませんでした。
多くの辞書に「愛護(の)若」が載っていることがあります。これは古典芸能のコンテンツの一つで江戸時代にはあったものだそうですが(コンテンツのタイトルでもありますが)主人公の名前(固有名詞)です。
ネットで検索するとあらすじが出てきますが、現在の「愛護」のイメージとは逆に感じるような境遇におかれる話です。
しかし、明治よりも前にこれ以外にこの単語は使われていなかったようなので、これを参考にしたのかもと想像しています。
「愛護」という言葉を知るには「動物愛護協会」の名前の生立ちを知る必要があります。
また、よく比べられる言葉として「動物福祉」があります。これに付いても簡単に書いておきます。
動物愛護協会
現在、日本には「日本動物愛護協会」があります。この団体は戦後日本が占領下にあった時に発足していますが、たぶん当時から英語表記があったと思います。
今は会社が定款で英語表記を定めるのが一般的になっていますが、それは平成に入ってからです。占領下の昭和20年台にそのようなものがあるのは不思議なくらいです。
何故このような話をするかというと、遠い昔の私は、動物愛護協会の英語表現が分かれば愛護の意味をより理解出来るとおもったのです。
しかし、英語名表記は Japan Society For The Prevention Of Cruelty To Animals 。
Prevention は 防止、予防、 Cruelty は 残虐、残虐な行為、虐待。直訳すると「日本動物虐待防止協会」となりそうです。
明治初期の話になります。
江戸時代に比べれば海外との交流がとりやすくなり政治や経済、科学技術など多くのことを海外から積極的に学びました。その中に動物愛護もありました。イギリスをはじめ海外には歴史ある「Society For The Prevention Of Cruelty To Animals(略称 SPCA)」が存在していました。
最古で現存する団体としてイギリスの「英国王立動物虐待防止協会 (The Royal Society for the Prevention of Cruelty to Animals, 略称 RSPCA) は、1824年(文政7年、第11代将軍徳川家斉の時代)に設立されています。
明治の日本の話に戻ります。動物愛護の活動をする人たちが集まり作った団体があり、その団体名は「動物虐待防止会」(明治35年=1902年~)としました。この頃には「愛護」という言葉を使うようになっていたようですが、この団体が後に「動物愛護会」と名前を改めます(明治41年)。これが初めて「動物愛護」という単語が公に使われた時だと言われています。
なぜ直訳である「虐待防止」を使うのをやめたのか。当時は人間でも体罰が当たり前の時代でした。(テレビドラマの話になりますが)「おしん」が産まれた年は明治34年と設定されています。人間もあのように扱われる時代です。動物虐待を唱えてもなかなか耳を傾けてもらえない世情と考えたのではないでしょうか。
もう一つの「動物愛護協会」
前述のように「Society For The Prevention Of Cruelty To Animals(SPCA, 虐待防止協会)」を動物愛護協会とするのが一般的ですが、もう一つあります。
明治時代に動物愛護を目的とする団体ができましたが、その後活動する人が増え団体も増えてゆきました。その中で実績を残した団体の一つが「日本人道会」です。
この名前を見た時「倫理的なものが強そう、ちょっと宗教がかっているのかな」と思ったのですが、これも海外の団体の名称が関わっているようです。
日本人が「動物愛護協会」とおもう団体で海外にあるものは「Society For The Prevention Of Cruelty To Animals」ともう一つ「Humane Society」があります。
Humane は、人道的な、慈悲深いという意味で、Humane Society は、古くは 1774年(寛保4年・延享元年、第10代将軍徳川家治の時代)にロンドンで発足したものらしいです。当初は二人の医師による水難救助団体のようなもので、同時に自殺未遂者の救助も行っていた(なので「自殺防止協会」と言われることがある)が、その後、児童や動物の保護活動も行うようになり、その後多くの Humane Society が設立され、現在英語圏で Humane Society とは動物愛護団体のことと認識されているようです。
命の危機にある人たちを救うことが Humane Society であることは理解できるのですが、動物愛護活動をする団体と思ってまず間違えにはならないようです。
この「Humane Society」を直訳した「人道会」が、私の疑問である「愛護とは?」のヒントになりそうです。(感情だけではなく)倫理観をもって動物を保護することが「動物愛護」なのでしょう。
「動物愛護」と「動物福祉」
私は動物愛護という言葉の確かなところが分からないでいますが、その言葉が使いはじめられた頃の話として、明治の動物虐待防止会から動物愛護会の存在があり、その辺りが(現在のことはともかく)この言葉の始まりだったようです。
当時のことが書かれた資料を見ていると、牛馬の扱いに胸を痛めたことが大きかったとよく書かれています。後々残ったものとして牛馬の給水所を作ったことも書かれています。
あくまで私の理解ですが「胸を痛めた」つまり「可哀想」という感情に起因したものと考えていますが、それだけでは極私的なものになってしまい、各々の感情論にもなりかねません。なので前述の通り「倫理観をもって」考えられたものとするものなのでしょう。
対して「動物福祉」は客観性・具体性を持っているものだと考えています。調査や実験テータ、各種論文などに基づいて議論し、社会的な施策を行う場面での判断材料になるものだとおもっています。
つまり「胸を痛めた」「可哀想」ではなく「動物の心身に害を与える」「結果として人間にも負担になったり、害を与える」を基準に考え、それらの基準も科学的に客観性・具体性があるものだと考えています。
なので、1999年の大改正の時、法律の名前に「愛護」が入ってきた時には驚きました。そこは「福祉」ではないのか。
しかし当時は「動物福祉」という言葉は広く理解されていませんでした。
2005年のことだと記憶していますが、とある地方議会で動物関係も所轄している部署の長が「最近は動物福祉という言葉もありまして・・・」と発言している場面を目にしてしまいました。その表情から「全ての皆さんには理解が得られないかもしれませんが、社会(行政)が動物の処遇等を配慮する立場になりつつありまして・・・」と言っているように感じ、動物愛護以上に社会に浸透していないものなのかと、心に引っかかったものでした。
なので、昭和48年に成立した「動物の保護及び管理に関する法律」の第一条にある「動物を愛護する気風を招来し」は、まだまだ招来しなければならないのが日本の社会なのかもしてません。
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