2月25日
もちろん今日も畑は休み。今日は16日祭だ。久野さんの手伝いをするが、久野さんも預かっているお墓の掃除に行かなければならない。このお墓は森中優(もりなかまさる)、通称マックじいさんと言う人のお墓だそうだ。
このマックじいさんとは、久野さんの話によれば、ハワイ生まれの日系人で長年世界を回っていた船乗りらしい。日本の周りをぐるぐる回っていた時、与那国で船をダメにし、この島で死ぬことを決意したらしい。この人の好きなものは、酒(毎日ビール一本)、タバコ(Hi-Tone)、喧嘩、女、音楽、の五つだそうだ。
この説明を墓の前で皆を集めて説明していた久野さんの社会の窓が全開であったことを僕は気が付いていたが、あまりに熱心に説明する彼に悪いと思い、その時は教えてあげなかった。
帰りに綺麗になった他の墓を見て回っていると、久野さんの知り合いの集まり(お墓の前でテントを張ってその下でみんな食事をしていた。)に招かれて少々ご馳走になった。今までこの島で食べたものの中で一番美味しかったと食べているとき思った。おさしみや蒲鉾など手を加えていないものもあったが、牛肉の煮付けが美味しかったのが印象的だった。今まで島で食べた牛料理は口に合わないものが多かったがここのは美味しく思えた。きっとこの肉は島のものではないのだろう。
この宴の席で久野さんは社会の窓の件を、宴会の主の人達に指摘されてしまった。ちょっと可哀想な気がした。
参考までにこのお墓について付け加えておく。マックじいさんのお墓は、純和式のものであるが墓石の下を掘っていないので、盛りあがった土の上に墓石があるのが僕には違和感を感じた。
ご馳走になった家のお墓は、島では伝統的な亀甲墓だが、普通のものよりも大きい。間口は5mはあったと思う。墓石までが6、7m位だろうか。墓石本体は小さな丘に埋め込まれているようになっていて、高さが3、4m位のものだ。テントはこの墓の入り口から墓石の前までのスペースに張られていた。一般の墓では考えられないことだ。
この日は洗管の日でもある。工場の前を通ると、いつもは体にへばり着きそうなぐらいの甘い匂いがしてくるが、ここ2、3日は何か腐ったような匂いに感じた。管の中に詰まった不純物が発酵してしまうのだろうか。

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