3月の平日の軽井沢はもの寂しい。お店はほとんど冬季休業中だし、人もあまり歩いていない。夏の賑わいとの大きな違いに「観光地のシーズンオフ」をこれでもかと言うほど実感させられる。
 なんでこんな時期に軽井沢に行ったのか。それは、宿泊料金が最も安いからだ!(既にこの時点でセレブじゃないな)。


 ずーっといい天気が続いていたのに、この日の予報は雨。案の定、軽井沢に着いた頃に雨が降り出すという最悪のパターンになってしまった。
 中軽井沢の「湯川ふるさと公園」に行くが、雨のためすぐに撤退。昼食をとろうと塩沢の「ミスアナベラ」に行くが休業。まあこんな日にお店開けてもお客は来ないだろうねえ。
 ごく軽くお昼を済ませたかったため、六本辻の「スリードッグベーカリー」に併設されている「D*CAFE」に入る。
 「ポテトとコンビーフのホットサンド」を注文。小さいホットサンドにポテトチップ、サラダ、紅茶で1400円也。これは「軽井沢価格」というものなのでしょうか。量は少ない方がよかったので、これでよいのだが。私は勝手に適正価格を800円と判断した。またお店の女の子2人が、いかにも「春休みになったのでアルバイトに来ました〜」という感じの慣れていなさ。「おいおい大丈夫か」と言いたくなるほどの接客ぶり。後で聞いたところ、ずっと冬季休業していて、今日久々に店を開けたそうだ。そうか、バイト1日目だったのね。どうりで。
 食後は隣りの「スリードッグベーカリー」でう〜に〜のレインコートを新調。高かったけど、着脱しやすいのと素材がよいのと柄が気に入ったのと、たまたまクレジットカードを携帯していたため(普段旅行には持って行かない)買ってしまった。ちょうど雨なのでこれを着て周辺を少し散歩。トイレを済ませる。
 
 3時まで「スーパーつるや」などを見て時間をつぶし、今日の宿「オーベルジュ・ド・プリマヴェーラ」にチェックインした。
 この宿は軽井沢の有名フレンチレストラン「プリマヴェーラ」が2年前にオープンしたホテル。レストランで受付を済ませ、部屋に案内される。ホテルはレストランとは別棟だが、車はレストランの駐車場に止めるため、荷物を運ぶのがちょっと大変だ。特に犬連れは荷物が多いし犬も連れているので、何度も往復することとなる。今日は雨、しかも地面はところどころ雪が残って凍結しており転ばないよう苦労した。
 案内された部屋は外階段を上がった2階。建物は2階建ての独立玄関である。新築ではなく、以前はどこかの会社の保養所だか社員寮だったそうな。でも内装はさすがオーベルジュという感じに、センスよく作り直されていた。
 玄関を入ると廊下の右側に寝室。ここはベッド2つでいっぱいいっぱい。犬は寝室に入れない決まりになっているが、物理的にも入れない。隣にバスルーム。廊下の左側にトイレがある。そして奥がリビング。リビングにはカーペットを敷いたソファとテレビのあるスペースと、フローリングにおしゃれなテーブルと椅子、デスクのスペースがあり広い。ここには犬用のケージ(う〜に〜には狭い)、消臭剤、コロコロ、トイレシート、食器、タオルなどが揃っていた。食器がペット用ではなく人間用の陶器だったり、タオルも花柄のきれいなものだった。
 テーブルの上にはシャンパングラス、くるみ、フランス製のチョコやキャンデーがこれまたおしゃれに置いてあるのだった。ここまで日本離れした宿は初めて。
 小さいバルコニーも付いていて、リビングから出られるようになっている。
 決して広々とした部屋ではないが、とてもよく工夫されていて、まとまりのよい部屋だ。全てにおいてセンスがよいので、とても居心地がよい。

 行ったことないからわからないが、フランス郊外にあるオーベルジュをイメージして作ったのだろうか?しかし泊まる私は純日本人。冷蔵庫の中にあるのが外国のビール、シャンパン、ペリエ、トニックウォーターのみだと確認すると、さっそくコンビニにお茶を買いに行ってしまったのだった。部屋には有線が入っていてバロック音楽が流れていたが、それもフォークに変えちゃうし、つまりせっかく「セレブ」で「おっされー」なホテルなのに、客の方が全然それに釣り合っていないのだった。

 犬の泊まれる部屋は2室らしい。予約時に電話で問い合わせした時には、レストランに連れて行けないこと以外、注意など一切言われなかった。部屋に規約があるけど一応置いてるもので、全てお客の良識に任せますとのことであった。
 私はこういう姿勢の宿が好きだ。何かあればきっちり責任取ってもらいますよという毅然としたところがよい。それはやはり部屋にある規約の文章にも表れていて、「迷惑行為があった場合は宿の判断で契約を解除する。いかなる理由があっても被った損害は賠償してもらうし、場合によっては営業保障もしてもらう」と書いてあった。これでますます好感をもったが、これを見て気分を害する人もいるんでしょうね。

 夕食はレストランではなく、メゾン(離れ)に案内された。ここももと住居を改装したもので、もとは和室だったらしく、玄関で靴を脱ぐ。ふすまなんかあったりして、ちょっと不思議な雰囲気だ。平日なので他にお客がなく、シーンとした広い部屋で係の人に見守られながら高級フレンチをいただくのは正直言って息苦しい。ただでさえ身分不相応なんだから、せめてもうちょっと他にお客がいてくれたら。
 ホテルはルームチャージ制なので、夕食はレストランでメニューを見てから決める。コースは5600円、7800円、12000円の3つ。5600円はごく軽いコースなので、魚、肉の両方がいただける7800円のコースにする。ちなみにメインの肉料理を牛肉にしたければ12000円しかない。係の人には「今日は黒トリュフのフラン、和牛のメインがおすすめです」と12000円コースを強く勧められるが、身の程を考え断る。
 最初に「食前酒はいかがでしょう」と言われ、気の弱い私はつい頼んでしまう。これは木の実(名前忘れた)の果実酒をスパークリングワインで割ったものだった。
 アミューズはワカサギを揚げたもの。柔らかくておいし〜。つまみにオリーブと乾燥イチジクが出るが、あまり食べないうちに下げられてしまった。ここらでワインを勧められる。リストを見せてもらうが、さすがにいい値段。ハーフでも普段私が飲むフルボトルより高い。ダンナは飲みたいハーフワインがあったようだが、私は白、赤両方飲みたかったので、グラスワインの白を頼んだ。ダンナは赤ワイン派なのでグラスの赤。グラスワインだけは650円とやけに安い。ここでもけっこう高いワインを勧められたが、できれば自信を持っておススメできるテーブルワインを置いてほしいと庶民の私は思うのだった。
 さて前菜。私が選んだのは「あん肝のテリーヌ」。甘めのバルサミコソースがあん肝独特の苦味と混ざってなかなか味わえない一品。見た目もきれいだ。付け合わせのセロリも、あまりセロリが得意でない私がおいしく感じるほどのものだった。
 次はスープ。トマト、セロリ、玉ねぎ、ニンジン、あと何だったかな・・・とにかく野菜たっぷりスープにタピオカなど浮き身を入れていただく。
 お魚はメバル。柔らかくておいしかった。ただしフレンチのコッテリ系ソースが実は得意でないダンナはこの辺で少し辛くなってきたもよう。
 お口直しのグラニテの後、メインへ。私は「千代幻豚」という豚肉の料理、ダンナは鹿肉のソテー。素材の生産地にもかなりこだわっているらしく、千代幻豚という豚はとても質のよい豚だそうだ。ロースを使っているとのことで、脂が多いのにしつこさがない。肉の部分はとてもきれいなピンク色で柔らかい。鹿は川上村産だそうだ。
 デザートは「虹色のスフレ」。7つの味を楽しめ、目でも楽しめる美しいデザート。ダンナは300円増しの苺をたくさん使ったデザートにしたが、これもおいしそうだった。でもダンナには少し重かったようで。ちぇっ、それなら私が食べればよかったわよ。
あん肝のテリーヌ 虹色のスフレ 苺をたくさん使ったデザート
 内容的には満足できるものだったが、庶民の私にはやはり「高い」という感じは拭い去れない。東京ではグルメ本に載っている店などは1人3万円位当たり前なようだが、私にはそんな店とても行けないから、今晩は軽井沢旅行での「ハレの日の思い出」として記憶に残ることだろう。

 部屋に戻って有線を入れたら井上陽水の「小春おばさん」が流れてきた。ダンナは「フランス料理食べた後にこの曲聞くなんて雰囲気が・・・」とブツクサ言っていた。
 お風呂は小さいが、トイレと別なのがありがたい。でも洗い場はない。これは仕方ないですね、オーベルジュですから。アメニティは充実していて、バスローブもあるし、タオルはクレージュの肌触りのよいやつだ。
 11時半位になると、う〜に〜が「私もう寝ます」と自分からクレートに入ってしまった。寝室に連れて行けないのがちょっと心配だが仕方ない。リビングに置いたクレートに寝かせて、私も寝室で就寝。






 う〜に〜がトイレをガマンしているかも、と心配して5時半に起き、クレートを覗いてみたら、私が来たのも気づかないくらい熟睡している。拍子抜けしてあと30分寝る。
 6時、クレートの扉を開けるが、う〜に〜、出て来ない。6時半になってやっとゴソゴソ出てきた。
朝からトリュフ!
 朝食は9時に予約していたのでゆっくり支度をして、レストランへ。朝食は離れではなくレストランの方だった。
 まずはサービスの人がオレンジジュースをついでくれる。そしてコーヒー。次にお皿が運ばれてきた。中にはポーチドエッグ。上に黒い細切りのものがたくさんかかっている。なんと国産の黒トリュフ!朝からトリュフですか。はぁ〜。
 まずはそのまま食す。次に野菜とベーコンの入ったスープがたっぷり運ばれ、このスープを注いで食べる。これがおいしい。実はトリュフってそれほど好きでもなかった。香りだけで味は特においしいと思わなかったけど、このトリュフ、おいしい。トリュフをおいしいと思ったのは初めてだった。
 この他にはパンが4種とヨーグルトだけ。サラダもハム、ソーセージ類もないので朝食としては一見少ないように思えるが、野菜もベーコンもスープにふんだんに入っているし、身体にやさしいし、満足度はとても高いものだった。
 ヨーグルトもトッピングがはちみつ、シュガー、いちごジャム、シリアルとあり、好みに合わせて作ってくれる。
「パンはどうした?」と
睨みをきかす うーにー
 パンもとてもおいしかった。ところでこのパンのうちのバゲットを、私は袖に引っ掛けて下に落としてしまった。もちろんすぐに新しいのを持って来てくれたけど、落ちたのはう〜に〜用にもらってしまった。しかし落ちるような場所でもなかったのに、何故落ちたのだ?しかもう〜に〜に食べさせられるバゲットが。私はう〜に〜がクレートの中から念力を送ったような気がしている。

 11時、チェックアウト。雨は上がりよい天気になった。今回は旅行業者を通して夕食以外の代金を先に振り込んでいたので(約1500円割り引かれた)支払ったのは夕食代のみ。夕食代、2人で計23000円也。先に振り込んだ宿代他が26000円なので、1人1泊2食で約24500円。これは今まで行った旅行で最も高額。すべてにサービス料が10%かかるので、けっこうな額になってしまうのだ。まあ、何度も行けないが、一度は行ってみてよかったと思える宿だった。
 ダンナは宿が気に入ったらしく、今度は1泊朝食付きにして、夕食は他で食べようと言っていた。でもオーベルジュに泊まって他で食べるって言うのもねえ・・・たしかに私としては、もう少しリラックスしてお財布も気にせず食べられるといいと思うので、うちにはそっちの方が合っているかも。やはりここではお財布なんか気にせず、勧められたものをどんどん「じゃ、それいただくわ」と言える人でないと心底楽しめないだろう。私が平常心で行けるような場所ではなかったということだ。お宿はとってもセレブだけど、泊まる私たちがちっともセレブじゃなかったのだ。
雨上がりで地面がぐちゃぐちゃなのが残念


 ホテルの人に「今度は犬もOKのテラス席にぜひ」と見送られ、車を置かせてもらって静かな軽井沢の町を少し散歩。
 そして車に戻り、昨日行った「湯川ふるさと公園」を再度訪問。
 この公園は遊具のある芝生の広場やドッグラン、小川などバラエティに富んでいるが、驚いたことに芝生のあちこちに犬の糞が放置されているのだった。怖ろしくてう〜に〜に芝生部分を歩かせられなかった。
 ドッグランは雪と昨日の雨で地面がぐちゃぐちゃだったが、誰もいないのでちょっと入ってみた。う〜に〜を待たせて、離れた所から呼んで3回走らせた。
 この後前橋の「M.Y Forest」に寄って昼食をいただき、う〜に〜もラムのステーキなど食べてゴキゲンになり、夕方になってお店を出る。8時帰宅。



(結論)
 今回の旅は「オーベルジュ・ド・プリマヴェーラ」のみが目的。犬のためというよりは人間のための旅行でした。
 ホテルも食事も素晴らしいものでしたが、庶民な私はどうしても「コストパフォーマンス」ということを考えてしまいます。でも一生一度?の思い出として、満足して帰って来ましたけどね。
 高級フレンチ店に通い慣れていて、予算も気にしなければ、もっと心から楽しめると思います。
 それから「しつけ」のできていない犬は泊まれませんが、「何かあっても全部お金で解決すればいいんでしょ」と言う人なら泊まれるかも知れません(推測)。