悲しい思い出 その2

2002/12  R さん より


国内 海外 お絵描き

先日、テレビで、有名人が海外の動物保護収容施設を訪ねる、と言う番組をやって
いました。それを見ていると、また、なんだか昔を思い出してしまいました。


その1 ある老犬
天気の良い日だった。「国道バイパスの脇を土佐犬がうろついている」と通報があった。
早速、現場へ行ったが、そこは一般の人家は少なく、廃車置場や工場、GSスタンドが
点在するような所。その辺を捜したが犬は見えない。やがて、自転車に乗った老人が
通りがかったので聞いてみた。すると、

「その犬なら、知ってる。捨てられてて、可哀相だから水をやったらなついた。呼ぶ
と来る。」という。

では、と老人に頼むと、その犬を連れてきた。首に麻縄を巻いて。
その犬は全身傷だらけで皮膚も体もくたびれた老犬だった。痩せていた。おそらく
闘犬に使われ、使用済みになり捨てられたのだろう。首輪も無かった。でも、彼は人に
は穏やかで初対面の我々にも尻尾を振っていた。現場から犬を輸送する為の車に
入れて、一時的に収容しておく為の施設(注)に戻る間、誰も無言だった。
当然のように彼は「処分」された。担当は彼が移動する前にご飯をたっぷりやったと
言う。せめて、と。

「犬に水をやった、と言うその老人は本当は飼主じゃないのか?」と言った人もいた。
でも、その犬には登録はなかった。どこにも。それに、もうそこまで人を疑いたくは
無かった。あの老人は、本当に善意で水をやってくれた、と信じたかった。

用済みであっさり捨てられた老犬の為にも。
一時的に収容しておく為の施設(注)
その保健所内には犬を収容する施設が無く、別の離れた場所に保健所用の収容檻がありました。その場所は、他にも動物を一時的に収容する施設ではありますが、保健所用の収容檻の管理(動物の管理も含む)は、全て保健所の者がすることになっていました。
ただ、そこの保健所の担当者は真面目な方なので、犬がいる時は必ず日に2回以上様子を見に行き餌をやり、よく掃除もしていました。

担当者(犬を捕獲する係と飼い犬指導係がそれぞれいます。
捕獲の時は一応、二人以上で行く事になっています。)によっては、かなり待遇が違うのです。


その2 吠えない犬
これは友人が担当した話。友人は、犬飼のベテランでもある。
ある時、ワンルームマンションのオーナーから「部屋に置き去りにされた犬を引き
とって欲しい」と連絡があった。
その部屋を借りていた学生が夜逃げ同然で故郷へ帰ってしまった、という。
かさばる家具類と犬を残して。
そこはペット禁止なので、驚いたオーナーはその学生に連絡したが
「そっちで自由に処分してくれ」という。

犬はまだ1才ぐらいの若いキャバリアだった。全然吠えず、静かにじっとしていた。
人の目をそっと見つめていた。
友人は、「この犬なら里親が見つかる」と思ったと言う。友人が必死に声を掛け
捲った結果、職場の同僚の知人が引き取ってくれることになった。
ただし、避妊手術&ワクチンを受けてから、と言う条件で。

その犬はダンボール箱に入れられ、手術を受けに行った。そこに着いてからも、
手術を受けて麻酔が覚めてからも(痛い筈なのに)全然吠えなかった。
「吠えないように厳しく扱われたのかもしれない」と友人は言った。
またダンボール箱に入って帰っていったが、車の中でくんくん小さな声で鳴くだけ
だった、そうだ。

その後、犬は無事新しい家に行った。1年後、ワクチンを依頼されて友人が
その家へ行った。普通に幸せそうだった、と言っていた。

少し、ワン、と吠えていたとも聞いた。
(管理人より)
飼い主不明、または、明らかに不在(放棄を含む)の犬の管理には、Rさんが書いてくださったこのページや「悲しい思い出」のページからも、何かと大変であることは想像できると思います。
これを読んでいるあなたのお住まいの地区では、その担当の人がどれだけの仕事を何人で行っているかご存知でしょうか。
また、保健所などには犬や猫の相談を受け付ける部署がありますが、あなたの地域にどれだけの犬や猫がいて、担当の方の数がどれだけで、その方達が他にどんな仕事と兼務しているか、ご存知でしょうか。

現在、ほとんどの行政は財政難です。担当の人の数を増やすことは、とても難しいようです。地域住民が何らかの手段で協力できれば、社会全体に犬への理解が深まり、より犬と暮らし易い社会になるはずです。

残念なことに、犬達の里親を探すことすら非常に慎重にならざるを得ない現状があり、お手伝いをお願いすることも慎重にならざるを得ない今までの経緯があるようです。
しかし、これだけ犬と暮らす人が増えた現在、どうにかして、それが変わってゆけばと、心から願っています。